この文章はネタバレ含む。
川上未映子の「黄色い家」を読んだ。 2023年に中央公論新社から刊行された、クライムサスペンス、ノワール要素が強い作品だ。
主人公の花(ハナ)は、スナックで働く母とその周辺のいい加減な大人たちのもとで、貧しく不安定な日々を過ごしている。 自立したくとも、そのための足場がどこにもない。
物語はそんな母が引き寄せた20歳ほど歳の離れた一人の女性、黄美子(キミコ)と主人公とのつながりを軸に描かれる。 また、それぞれにどうしようもない事情を抱える同年代の少女たちとの共同生活で花は成長と挫折を繰り返す。
登場人物たちそれぞれの生い立ち、性格、行動原理などは、極めて解像度が高く、昭和〜平成を舞台とした時代背景も含めてとてもリアルだ。
(個人的にラッセンのくだりは全部面白い)
彼女たちが行う行為には許されざることが非常に多い。 ただ、それを切り離して考えると、皆、非常に人間臭く、愛おしい気持ちすら湧いてくる。
そしてその究極が黄美子なのである。
黄美子の無闇に人を信じてしまうところ、自分のキャパを超えると苛立ち放棄してしまうところ(どんなに重要なことでも。)、自分の心地の良いものに身を置き心の安定を得るようなところ(彼女はずっと掃除をしている)、細かいことを気にしないところ(できないところ)。
黄美子から感じ取れる様々なことが、自分や身の回りの愛する存在の中にも多かれ少なかれ垣間見る、人間の弱さだったり、おおらかさだったりする。
少しネタバレだが、冒頭すぐに時系列的には現代の花が黄美子に関わる不穏なニュースを知ることから始まる。 読者は皆、ここで黄美子という人物に不信感を持つはずだ。
物語はすぐに過去の回想(花の学生時代)へと繋がるのだが、読者はこの負のイメージを持ったまま花の目を通して黄美子という存在を見極めるような、そんな体験をするんじゃないだろうか。
最終的に現代の年老いた黄美子と再会するわけだが…。
とてもうまい構成になっているなと思う。
読後感は切なくも温かい気持ちになるので是非、本を読んでみてください。